OJT×営業同行で伸びる人材を育てる指導のポイント
新人へのOJTで同行指導をしているのに、独り立ちできる部下がなかなか育たない。
そんな悩みを抱える営業マネージャーは少なくありません。
自分自身、体系立ったOJTを受けた経験がなく、先輩の背中を見て覚えてきたという管理職がほとんどでしょう。
指導する上司によって教える内容がばらつき、新人が混乱してしまうケースも多く見られます。
必要なのは、感覚に頼った指導を型に変えることです。
本記事では、事前の準備から商談中の視点、直後のフィードバックの返し方まで、明日から使える指導のポイントを解説します。
東京工業大学卒業後、博報堂を経てプルデンシャル生命保険にて4年連続MDRT会員。営業所長・支社長としてマネジメントも経験し、育成メンバーの約60%をMDRT会員に育成。2019年、営業を科学することに特化した株式会社インビクタスを創業。
プロフィール詳細を見る →営業同行を始める前に「教える基準」を決める
OJTにおける同行指導とは、上司や先輩が新人の商談に同席し、実践を通じて営業スキルを伝える育成手法です。
同行指導は、目的を決めないまま「とりあえず一緒に行く」形になりがちです。
何を教えるかが曖昧なまま商談に臨むと、新人も上司も学びのない同行で終わってしまいます。
まず必要なのは、同行という取り組み自体の設計を見直すこと。
- 独り立ちの基準を、数字と行動で先に言語化する
- 1回の同行で教えるテーマを1つだけに絞る
- 同行の目的を「観察→同席→実践」の3段階に分ける
教える基準を先に決めておくだけで、同行の効果は大きく変わります。
独り立ちの基準を、数字と行動で先に言語化する
「まだ不安だから」という上司の主観だけで同行を続けていると、新人の自立心はいつまでも育ちません。
独り立ちの基準を曖昧にしたまま同行を重ねる指導は、少なくないでしょう。
「新規商談のヒアリングを1人で完了できる」「テレアポからの初回アポ獲得を月3件クリアする」というように書き出します。
数字と具体的な行動で、基準を先に言語化しておきましょう。
基準が明確なら、新人自身も次の目標を意識しながら同行に臨めます。
同行の終わりを決めておくことこそ、指導全体の質を高める出発点です。
あくまで目安ですが、週1〜2回のペースで1〜3ヶ月ほど同行を続け、基準を満たした時点で独り立ちとする進め方もあります。
新人を放置せず育てる考え方は、以下の記事でも詳しく解説しています。
>>【関連記事】もう「ほったらかし」にしない!新人営業マンの「やることない」を解決する育成術
1回の同行で教えるテーマを1つだけに絞る
欲張りは禁物です。
挨拶もヒアリングもクロージング(契約締結に向けた最終的な後押し)も、1回の商談で完璧に教えようとすると危険です。
新人の頭は、すぐにパンクしてしまいます。
今日の同行のテーマは、最初の3分間で志を語り切ることなのか、あるいは顧客の不安を引き出す質問を投げることなのか。
押すべき心理のスイッチを1つだけに絞り込み、ピンポイントでフィードバックする方が、学びの定着は圧倒的に早まります。
欲張って複数のテーマを同時に追いかけると、結局すべてが中途半端なまま商談が終わってしまうものです。
テーマを絞り込む勇気こそ、指導する側に求められる姿勢だといえます。
同行の目的を「観察→同席→実践」の3段階に分ける
管理職に求められる役割のひとつが、部下に見本を示すスキルトレーニングです。
まずは上司自らが、完璧な自己紹介やヒアリング、クロージングの台本を顧客の前で演じて見せる「観察」の段階から始まります。
続く「同席」の段階では、「自己紹介とヒアリングの現状確認までは新人が担当し、顧客が不安を口にしたタイミングで上司が引き継ぐ」というように、役割を部分的に任せていきます。
最後の「実践」の段階では、新人が商談の全体を主導し、上司は後ろで定点観測に徹することで、部下は無理なく成功体験を積み重ねられるのです。
営業同行の前日までにやっておく準備
同行の成否は前日までの準備で決まります。
過去の商談議事録や提案資料、訪問ルートといった基本の下ごしらえも重要です。
上司が答えを先回りして教えてしまうと、新人は考える力を育てられません。
- 想定質問への回答を、答えを教えずに新人に考えさせる
- 商談内の役割分担を、事前に言葉にして決めておく
前日の準備を丁寧に行うほど、当日の商談の質は安定していきます。
想定質問への回答を、答えを教えずに新人に考えさせる
「お客様はきっとこう聞いてくるから、こう答えなさい」と、上司が先に正解を教えてしまう場面は少なくありません。
「もしお客様から『検討します』と言われたら、どう切り返すか」と問いかけ、新人自身に考えさせることが重要です。
新人が使うのは、購買心理でいう不満・不安の共有や、いったん受け止めてから切り返すイエス・バット法(反論をすぐ否定せず、一度受け止めてから提案し直す話法)。
切り返しの型を思い起こさせながら、新人自身の口から答えをアウトプットさせましょう。
自分の言葉で考えた答えは、暗記した台本よりもはるかに現場で使える武器になるものです。
正解を渡すのではなく、正解にたどり着く道筋を一緒に探る姿勢が問われます。
商談内の役割分担を、事前に言葉にして決めておく
商談が始まってから、とっさのノリで「じゃあここからは自分が話す」と引き継ぐのは避けたいところ。
役割は、あらかじめ決めておきます。
「名刺交換から自己紹介の3分と、ヒアリングの現状確認部分までは新人が担当する」というように言葉にしましょう。
バトンタッチのタイミングも、一言一句言葉にしておくことが大切です。
顧客が不安を口にした瞬間に、上司が第三者話法(「他のお客様も同じ不安から始まりました」のように第三者の事例を借りて伝える話法)で引き継ぐ、といった具合。
役割が曖昧なまま商談に入ると、新人は「いつ喋っていいか」を気にして本来の力を発揮できません。
決めておくべきは台本の中身だけでなく、誰がどこを担当するかという設計図全体です。
OJT同行中は、新人に主導権をどこまで渡すか
商談が始まったあと、上司がどこまで手を出すかは指導の質を大きく左右します。
任せすぎれば放置になり、口を出しすぎれば新人の学びを奪うだけです。
- ヒアリングの主導権を段階的に新人へ渡していく
- 教える側が喋りすぎて、新人の出番を奪わない
主導権をどこまで渡すかは、事前に決めた役割分担と同じくらい重要な判断だといえます。
ヒアリングの主導権を段階的に新人へ渡していく
商談の核心にあたるヒアリングは、顧客の不満・不安を引き出す最も難しい工程です。
最初は現状を確認する簡単な質問だけを新人に任せ、感情を揺さぶる深い不安の顕在化は上司が担当します。
新人のスキルが上がるにつれて、徐々に深いヒアリングの台本も任せていきましょう。
一足飛びにすべてを任せると、失敗の記憶ばかりが残り、次の商談への自信を失わせてしまいます。
小さな成功を積み重ねながら、任せる範囲を少しずつ広げていく姿勢が欠かせません。
教える側が喋りすぎて、新人の出番を奪わない
プレイングマネージャーには罠があります。
営業プレイヤーとしての血が騒ぎ、部下を差し置いて自分が喋り倒してしまう罠です。
プレイングマネージャーが陥りやすい罠については、以下の記事で抜け出し方まで解説しています。
>>【関連記事】プレイングマネージャーが陥る罠と抜け出す3つのステップ
気づけば上司ひとりで契約をまとめてしまい、部下は横で見ているだけの観客になってしまいます。
「やっぱり自分では売れない、上司がいないと無理だ」と部下が感じてしまえば、自立の芽は摘まれてしまうでしょう。
商談中の上司に求められるのは、話す力ではなく、話したい気持ちを抑える自制心です。
喋りたい場面ほど一呼吸置き、部下に任せる勇気を持ちたいところ。
営業同行中、教える側は「話す内容」より「顧客の反応と新人の様子」を見る
同行中の上司が見るべきは、部下の受け答えだけではありません。
商談を動かしているのは、目の前にいる顧客の反応と、隣で話す新人の振る舞いにほかなりません。
- 顧客の相槌と沈黙のタイミングを観察する
- 新人の口癖・目線・話す速さの癖を記録する
観察のポイントを知っているかどうかで、同行から得られる情報量は何倍にも変わります。
顧客の相槌と沈黙のタイミングを観察する
部下が台本どおりに話している間、顧客が深くうなずいた一言と、逆に眉をひそめた一言を見逃さないようにします。
とくにクロージングトークを投げたあとの沈黙は、顧客が真剣に検討している貴重な時間です。
沈黙の間に新人が焦って言葉を挟み、商談の流れを台無しにしていないかをシビアに観察します。
顧客の表情や間合いには、台本には書かれていない本音が表れるものです。
上司の役割は、そうした本音のサインを部下の代わりにキャッチしておくことにあります。
新人の口癖・目線・話す速さの癖を記録する
印象は、話の内容だけでは決まりません。
声のトーンや表情、目線といった非言語の情報も、印象を大きく左右するといわれています。
新人が緊張のあまり早口になっていないか、顧客の目を見て話せているかを確認しましょう。
無意識のうちに「すいません、すいません」とペコペコ謝る、いわゆる「すいません営業」になっていないかも要チェックです。
謝罪の言葉が多い営業ほど自信なく見え、顧客の安心感を削いでしまいます。
こうした非言語の癖は本人が気づきにくいため、そばで見ている上司にしか記録できません。
OJT同行直後、間を置かずにフィードバックを返す
同行における最大の学びの機会は、商談中よりもむしろ直後のひとときにあります。
フィードバックの質が、次の同行の成果を決めるといっても過言ではありません。
- フィードバックは同行が終わった直後、当日中に伝える
- 良かった点を先に、改善点をあとから伝える順番を守る
- 「はい・いいえ」で終わらない問いかけで、新人自身に振り返らせる
順番とタイミングを守るだけで、フィードバックの効果はまったく違うものになります。
フィードバックは同行が終わった直後、当日中に伝える
人の記憶は、時間がたつほど薄れていきます。
新人だけでなく、指導する上司の記憶にも同じことがいえるのです。
商談を終えてオフィスに戻る途中のカフェや車内など、できれば30分以内を目安に、間を置かずフィードバックを行うようにしましょう。
時間が経つほど顧客の細かい反応も新人のトークの細部も薄れ、伝える言葉は抽象的な精神論に近づいてしまいます。
鮮度が高いうちに言葉にするほど、フィードバックの効果は最大化されるものです。
良かった点を先に、改善点をあとから伝える順番を守る
いきなり指摘から入ると、新人は「上司との同行は怒られる場」だと学習してしまいます。
まずはできた部分を具体的に取り上げ、大げさなくらいに認める言葉をかけましょう。
安心感が生まれたところで、はじめて1つの改善点を伝えるという順番を守ります。
褒めてから直すという順番を逆にするだけで、同じ指摘でも部下の受け取り方は大きく変わるものです。
存在を認められた実感があってこそ、部下は次の課題に前向きに向き合えます。
「はい・いいえ」で終わらない問いかけで、新人自身に振り返らせる
「なぜあそこでクロージングに行かなかったのか」と過去の行動を問い詰めると、部下は言い訳を並べ始めてしまいます。
過去を追及して説教するのではなく、「次はどうすればスムーズに切り出せそうか」と未来に向けた問いを投げかけましょう。
部下自身の頭で考えさせ、「次はこう伝えてみます」と自分の言葉でアウトプットさせることが大切です。
答えを与えられるより、自分で見つけた答えの方がはるかに行動に結びつきます。
問いかけ方ひとつで、フィードバックはただの指摘から学びの時間に変わるのです。
部下の成長を引き出す問いかけの具体例は、以下の記事で紹介中です。
>>【関連記事】営業1on1で使える質問例20選|部下の成長を引き出す進め方
まとめ
OJTでの同行指導は、目的を決めずになんとなく連れて行くだけでは成果につながりません。
大切なのは、勢いではなく型です。
同行前の準備、商談中の役割分担、直後のフィードバック。
こうした一連の流れを型として持つことが、部下の成長速度を大きく左右します。
上司の感覚を言語化し、誰が教えても再現できる仕組みに変えていくことこそ、今後の同行指導に求められます。
営業マネージャーに求められる役割全体は、以下の記事で体系的に解説中です。
>>【関連記事】営業管理職の7つの役割と成果を出す4つの能力
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