営業のプレイングマネージャーが陥る罠と抜け出す3つのステップ
「部下に仕事を任せたいのに、気づけば自分が動いている」。
そんな悩みを抱える営業マネージャーは、決して少なくありません。
プレイングマネージャーという働き方には、多くの現場で見過ごされがちな「罠」が潜んでいます。
自分でやったほうが早いという判断を積み重ねた結果、チームが育たないまま数字だけを追い続ける状態に陥っている方も多いはず。
本記事では、営業のプレイングマネージャーが陥りやすい罠の正体と根本原因、そして抜け出すための具体的なステップを解説します。
最後まで読めば、自分の時間を取り戻しながらチームを育てる糸口が見つかります。
東京工業大学卒業後、博報堂を経てプルデンシャル生命保険にて4年連続MDRT会員。営業所長・支社長としてマネジメントも経験し、育成メンバーの約60%をMDRT会員に育成。2019年、営業を科学することに特化した株式会社インビクタスを創業。
プロフィール詳細を見る →プレイングマネージャーとは?営業組織における役割と実態のズレ
プレイングマネージャーとは、自ら顧客と向き合って売上を作る「プレイヤー」の顔を持つ立場のこと。
チームを管理・指導する「マネージャー」の役割も兼務します。
営業職に根づいているのは、プレイヤー業務を続けながら管理職に昇格するという慣習。
だからこそ、昇格後もプレイング業務を手放せないケースが目立ちます。
会社が期待する役割と、本人が抱える負担には、想像以上の隔たりがあるものです。
- プレイングマネージャーの定義と兼務が生まれる背景
- 会社が期待する役割と、本人が抱える負担のギャップ
- プレイヤーとマネージャー、2つの顔の境界が消えていく
まずは、プレイングマネージャーが抱える構造的なズレから見ていきましょう。
プレイングマネージャーの定義と兼務が生まれる背景
一般的な管理職は、活動管理・人材育成・コミュニケーション・スキル指導という4つの業務に専念します。
管理職に求められる役割全体は、以下の記事で7つの役割・4つの能力として体系的に解説しています。
>>【関連記事】営業管理職の7つの役割と成果を出す4つの能力
プレイングマネージャーの特徴は、管理職の4業務に加えて自らフロントに立つ点。
商談やクロージングをこなす「トッププレイヤー」の実務まで抱える点が、一般的な管理職と違います。
理由は単純。
組織内で最も営業スキルが高いマネージャー自身が動いたほうが、確実かつ早く数字を作れるからです。
会社が期待する役割と、本人が抱える負担のギャップ
経営層は当然のように、個人の売上実績とチーム目標の両方をプレイングマネージャーに求めます。
若手を一から鍛え上げるには、膨大な時間とエネルギーが欠かせません。
けれどもプレイヤー業務が忙しくなるほど、育成に割く時間は物理的に削られていきます。
現場を走り回るうちに本人の負担が限界に達し、育成という機能が完全に止まってしまうのです。
プレイヤーとマネージャー、2つの顔の境界が消えていく
プレイングマネージャーには、自分の数字を追う「ハンター」の顔があります。
加えて、部下を支える「支援者」の顔という、性質の異なる役割も同時に求められます。
数字を追う顔ばかりが強くなると、部下と向き合う時間が丸ごと失われていく。
気づけばチームの中に、部下の居場所が残っていない状態になりかねません。
なぜプレイングマネージャーは「罠」にはまりやすいのか
役割のズレを抱えたまま日々の業務をこなしていると、多くの営業マネージャーが同じ「罠」にはまっていきます。
罠にはまる背景には、成功体験・数字への責任・自覚のしにくさという3つの要因が絡み合っています。
- 「自分でやったほうが早い」という成功体験が判断を鈍らせる
- プレイヤー業務が労働時間の50〜60%を占める構造
- 罠にはまっている自覚を、本人が最も持ちにくい
背景を一つずつひもといていきます。
「自分でやったほうが早い」という成功体験が判断を鈍らせる
優秀なプレイヤーから昇格したマネージャーほど、「自分が出れば商談は決まる」という我流の成功体験を積み重ねています。
部下の拙い商談を目にすると、つい主導権を奪ってしまいたくなるもの。
目先の成果を優先する判断こそが、部下に仕事を任せる中長期的な決断を鈍らせる原因になります。
プレイヤー業務が労働時間の50〜60%を占める構造
インビクタスの分析によれば、多くのプレイングマネージャーは労働時間の50〜60%をプレイヤー活動に奪われています。
残りの時間は、管理・教育・コミュニケーション・トレーニングという4つの職務に細かく分散。
なかでも部下を独り立ちさせるスキルトレーニングには、わずか5%しか割けていません。
偏った時間配分こそが、部下へ仕事を任せることを物理的に不可能にしているのです。
罠にはまっている自覚を、本人が最も持ちにくい
「チームのために誰よりも働いている」という自負が、マネージャー自身の行動を正当化してしまいます。
自分が稼ぐことで一時的にチーム目標が達成されているうちは、成長を止めているボトルネックが自分自身だとは気づきにくいもの。
むしろ頑張っているという自覚のほうが強く残ってしまいます。
営業のプレイングマネージャーが陥りがちな3つの罠
背景を踏まえると、営業のプレイングマネージャーには共通して3つの罠が存在することが見えてきます。
いずれか一つに心当たりがあれば、他の罠にも波及している可能性が高いといえるでしょう。
- 罠①:「自分でやったほうが早い」委任不全
- 罠②:数字を持ち続けることへのプレイヤー業務依存
- 罠③:型がないまま指導する属人化
一つずつ、具体的な中身を確認していきます。
罠①「自分でやったほうが早い」委任不全
部下の商談に同行した際、拙い進行を見かねて主導権を奪い、自らクロージングして契約を巻き取ってしまう現象です。
一時的に数字は立ちますが、部下には「自分の力で売れた」という成功体験が残りません。
同行時にサポートするなら、部下が練習した台本と同じやり方で見せる必要があります。
そうしなければ、部下は「マネージャーだからできた」としか受け取れないのです。
罠②数字を持ち続けることへのプレイヤー業務依存
本来は仕組みづくりを進めるべき立場でありながら、プレイヤー業務が労働時間の半分以上を占め続ける罠です。
忙しさに逃げ込むことで、育成や管理という本来の難題から目をそらしてしまう。
結果として、マネジメント業務は後回しにされ続けます。
罠③型がないまま指導する属人化
営業プロセスに共通言語となる「型」がなければ、指導は「俺はこうやって売ってきた」という精神論に頼るしかありません。
若手は「指導した本人だから、たまたまできたのだろう」としか納得できず、誰も再現できないまま終わってしまいます。
結果として、センスのある一部の人材しか生き残れない、脆い組織が出来上がるのです。
罠の根本原因は「評価制度」と「仕事の任せ方」の設計にある
3つの罠は、個人の性格や能力の問題ではありません。
評価制度と仕事の任せ方の設計自体に、根本的な原因が潜んでいます。
- プレイヤー業績だけで評価する制度の落とし穴
- 「任せる」と「丸投げ」の境界が曖昧なまま運用されている
制度面の課題を、具体的に確認します。
プレイヤー業績だけで評価する制度の落とし穴
多くの企業では、マネージャーの評価が「個人の売上」や「チームの目先の合計」だけで設計されています。
時間のかかる部下育成よりも、即効性のある「自ら売る」行動が優先されるのは自然な流れといえるでしょう。
マネジメントの成果自体を測る仕組みが無い点にこそ、根本原因があります。
「任せる」と「丸投げ」の境界が曖昧なまま運用されている
「とりあえずアポを取ってこい」と、型もトレーニングも与えないまま現場に送り出す組織は少なくありません。
台本を体に染み込ませ、成功期待感を持たせて送り出したうえで、任せた後の活動も見守る。
そこまで実践して初めて、正しい「任せる」だといえるのです。
プレイングマネージャーの罠から抜け出す3つのステップ
原因が見えれば、次にやるべきことは明確です。
プレイングマネージャーの罠から抜け出すために、実践したい3つのステップを紹介します。
- ステップ1:業務を棚卸しし、任せる仕事を選ぶ
- ステップ2:任せた後を「見える化」してフォローする
- ステップ3:小さな成功体験を部下と積み重ねる
特別なスキルは不要。
順番を守るだけで、誰でも実践できるステップです。
ステップ1:業務を棚卸しし、任せる仕事を選ぶ
まずは自分の1週間が、プレイヤー業務とマネジメント業務にどう配分されているかを可視化しましょう。
可視化したうえで、すべてを一人で抱え込む発想を手放します。
タスクの隙間にマネジメント業務を挟むのではなく、先に予定へ組み込んでしまう発想の転換も有効。
空いた時間にプレイヤー業務を差し込むようにすれば、育成に使う時間が失われにくくなります。
中位6割のメンバーに、下位2割のメンバーを指導させる「2:6:2」の役割設計も有効な選択肢。
指導する側のスキルも同時に伸びるという、相乗効果まで期待できます。
プレイングマネージャーのスケジュール管理術は、以下の記事でさらに詳しく解説しています。
>>【関連記事】成功へ導く!営業マンのスケジュール管理術【営業管理職も必見】
ステップ2:任せた後を「見える化」してフォローする
任せきりにすると、多くの場合は丸投げに逆戻りしてしまいます。
1週間単位で活動予定と進捗をカレンダー上に色分けし、状況を見える化しておきましょう。
人は1週間で7割を忘れるといわれるからこそ、毎週の定点観測が欠かせません。
アポの質や、行動のすり替えが起きていないかまで、丁寧にチェックしていきます。
見える化した状況を部下と対話する具体的な質問例は、以下の記事で紹介しています。
>>【関連記事】営業1on1で使える質問例20選|部下の成長を引き出す進め方
ステップ3:小さな成功体験を部下と積み重ねる
いきなり高い目標を課しても、部下は自信を持てないまま終わってしまいます。
共通の台本を丸暗記させ、ロールプレイングで成功期待感を高めておくことが先決。
現場では同じ台本通りにマネージャーが同行し、決まる瞬間を目の前で見せます。
「自分の型で本当に売れた」という体験を共有できれば、部下は自律的に動き出すはずです。
罠を抜け出した先にある、強い営業組織への変化
プレイングマネージャーが罠を抜け出すことは、本人だけでなく組織全体の未来を左右します。
最後に、抜け出した先で起こる変化を2つ紹介します。
- 個人の頑張りに依存しない、再現性のある組織になる
- 実際に若手の定着率と売上が伸びた事例
数字にも表れる、具体的な変化を見ていきましょう。
個人の頑張りに依存しない、再現性のある組織になる
共通の型とロールプレイングが定着すると、特別なセンスを持たない人材でも一定確率で売れるようになります。
「気合と根性」に頼る職人気質の文化は解体され、仕組みで売上を支える組織へと変わっていく。
マネージャー自身も、若手の基礎トレーニングに忙殺される時間から解放されます。
実際に若手の定着率と売上が伸びた事例
インビクタスが支援した株式会社フロンティア・インベストメントでは、かつて若手の離職率の高さが課題でした。
売上も一部のトップ層に依存する状態が続いていたのです。
共通の型と、行動を可視化するマネジメント手法を導入した結果は明快。
若手の定着率が大きく改善し、会社の売上は2倍以上に成長しています。
若手の定着率を上げるための組織改革は、以下の記事でさらに詳しく解説しています。
>>【関連記事】なぜ若手セールスパーソンほど辞めるのか?定着率を上げる5つの組織改革
まとめ
プレイングマネージャーが抱える罠は、性格の問題でも、根性で乗り越えるものでもありません。
評価制度と仕事の任せ方を見直し、任せた後を仕組みで支えることに尽きます。
- 業務を棚卸しし、任せる仕事を選ぶ
- 任せた後を「見える化」してフォローする
- 小さな成功体験を部下と積み重ねる
3つのステップを一つずつ実践すれば、プレイングマネージャーとしての負担は着実に軽くなっていくはずです。
罠から抜け出すための組織づくりに悩んでいる方は、ぜひ一度ご相談ください。