第三者話法とは?心理学的効果と営業での実践例を解説

営業現場において、「いかに顧客に響く言葉を届けるか」は永遠の課題です。
その解決策の一つとして、「第三者話法」は、セールスパーソンが直接伝えるよりもはるかに高い確率で顧客の心に響き、行動を促すための強力なコミュニケーションスキルです。
この話法は、組織全体の営業パフォーマンス向上に直結する再現性の高い営業の型を構築する上で不可欠な要素となるでしょう。
この記事では、第三者話法の心理学的な効果から、実践での活用方法まで具体的に解説します。
第三者話法とは?心理学的効果を解説
第三者話法とは、セールスパーソンが直接言いたいことや顧客に伝えたい情報を、第三者の言葉や事例を借りて伝える話法です。
顧客に直接質問しづらいデリケートな内容や、セールスパーソン自身の言葉では響きにくいテーマについて、客観性や共感性を持たせて提示することで、顧客の心理的な抵抗感を和らげ、本音を引き出すことを目的とします。
この話法の根底には、「人は自分自身の言葉に最も影響を受ける」という脳科学的な知見があります。
セールスパーソンが一方的に話すのではなく、顧客自身に「そうだな」「確かにそれは不安だ」と言わせることで、顧客自らが課題を認識し、解決策を求めるようになるのです。
第三者話法の効果|なぜ説得力が高まるのか
第三者話法の最大の特徴は、セールスパーソンが直接伝えるメッセージよりも、顧客の心に深く響く点にあります。
これは単なるテクニックではなく、人間の心理メカニズムに基づいた科学的なアプローチです。
顧客はセールスパーソンの言葉を「売り込み」として警戒しがちですが、第三者の視点や事例を通じて情報を受け取ることで、客観的で信頼できる情報として認識します。
第三者話法がもたらす心理学的効果は以下の3つです。
- 信憑性向上による抵抗感の軽減
- 同調心理と社会的証明の活用
- 自己実現欲求への訴求効果
それぞれ順番に解説していきます。
信憑性向上による抵抗感の軽減
顧客はセールスパーソンの話を「売り込み」として受け止め、心理的な壁を作りがちです。
第三者の意見として提示することで、この壁を低くし、顧客が安心して話を聞ける環境を作り出します。
セールスパーソンが「良い商品です」と直接言うよりも、「多くの方から『これは良い』と言っていただいています」という形で伝える方が、はるかに信憑性が高まり、顧客の心のガードが緩みます。
同調心理と社会的証明の活用
「一般的に言われていること」や「世の中の多くの人がそう感じていること」として話題を導入することで、顧客は「自分だけではない」という安心感を持ちます。
人は多数派の意見に同調しやすいという心理が働き、提案内容がより受け入れられやすくなります。
自己実現欲求への訴求効果
第三者話法は、顧客が抱える問題を解決した後の未来の姿を具体的に想像させることで、購入意欲を高めます。
「嫌だね」と「いいね」を連続して提示することで、顧客を感情のジェットコースターに乗せ、商品・サービスがない将来の「嫌な状況」と、それがある将来の「良い状況」を鮮明にイメージさせます。
第三者話法の基本構成
第三者話法を効果的に活用するためには、単に他人の話を引用するだけでは不十分です。
顧客の心に響き、行動変容を促すためには、戦略的に構成された話法の流れが必要となります。
この話法は心理学に基づいた4つの要素から構成されており、これらを適切な順序で組み合わせることで、顧客の感情を段階的に引き出し、最終的に自発的な決断へと導きます。
第三者話法の基本構成は以下の4つです。
1. 一般論の提示
2. 似たような状況の人の事例
3. セールスパーソン自身の共感・意見
4. 顧客への問いかけ
これらの要素を「ぐるぐる回す」ように繰り返すことで、顧客の感情を深く掘り下げ、自ら課題を認識し、解決策を求める心理状態へと導くことができます。
1. 一般論の提示
「一般的に言われていること」として話題を導入します。
例:
「一般的には、老後の資金について漠然とした不安を抱えている方が多いですよね」
「御社のような一流企業にお勤めの方でも、ご自身に何かあった時のご家族の生活を心配される方は少なくありません」
2. 似たような状況の人の事例
顧客と似たような立場や状況にある第三者の具体的な事例を提示します。
例:
「あなたのような状況の方で、同じように悩んでいらっしゃった○○さんも、この解決策で非常に喜ばれていました」「実は先月も、○○さんと同じ業界で同じような課題を抱えていらっしゃった社長さんがいらして、最初は同じようなご心配をされていました。でも導入後は『もっと早く知りたかった』とおっしゃっていただけました」
3. セールスパーソン自身の共感・意見
顧客と関係が深まってきた段階で、セールスパーソン自身の経験や共感の気持ちを挟むことも有効です。
例:
「実は私も同じような経験をしたことがありまして、当時は本当に不安でした。だからこそ、お客様のお気持ちがよく分かります」
「正直に申し上げると、私自身もこの商品に出会うまでは、同じような悩みを抱えていました」
4. 顧客への問いかけ
上記の情報に基づき、「あなたはどう思いますか?」「いかがですか?」と、顧客に直接意見を求めます。
ここで重要なのは、顧客に具体的な感情や考えを語らせることです。
例:
「もし同じような状況になったとしたら、○○さんならどうされたいですか?」
「もしこの問題が解決できたとしたら、○○さんにとってどんな意味がありますか?」
営業シーン別の実践例
第三者話法の理論を理解したところで、実際の営業現場でどのように活用するかが重要です。
営業活動は初回のアプローチから最終的なクロージングまで、様々な局面があり、それぞれの場面で顧客の心理状態や関心事が異なります。
そのため、各シーンに応じて第三者話法の使い方を最適化することで、より高い成果を期待できます。
ここでは、営業プロセスの主要な3つの場面における第三者話法の実践例をご紹介します。
- 初回商談での信頼構築
- 価格反対への切り返し
- クロージング時の最後の一押し
各場面での具体的なトークスクリプトと、なぜその話法が効果的なのかという心理的背景も含めて解説していきます。
初回商談での信頼構築
初回商談では、顧客はまだセールスパーソンに心を開いていない状態です。第三者話法を用いることで、信頼関係をスムーズに構築できます。
アプローチ例:
自己紹介の段階から第三者の視点を交え、自身の志や価値観を語る
「あなたが抱えている不満・不安は、他の多くの顧客も感じていらっしゃいますよ」という一般論で警戒心を和らげる
価格反対への切り返し
顧客が価格の抵抗感を示す場合の対応例を紹介します。
ステップ1: まず価値に焦点を当てる
「この仕組みが手に入るとしたら、値段は一旦置いておいてどうですか?」
ステップ2: 第三者の視点で価値を再認識させる
同じような状況の方々が「安さを重視して他を選んだが、結果的にもっとコストがかかってしまった。最初からこちらにしておけばよかった」とよくお話しくださいます。
クロージング時の最後の一押し(検討したいと言われた場合)
共感: 「検討したいですよね。分かりますよ」
第三者事例: 「実は同じように検討したいと言っていた方々が、結局1週間経っても1ヶ月経っても何も進まず、記憶だけが薄れてしまって、もう一度話を聞きたいとご連絡くださる方が大変多いのです」
選択肢の提示: 「お時間いただくとしたら、今週と来週のどちらが良いですか?」
効果的な第三者話法のパターン
第三者話法をさらに効果的に活用するためには、どのような「第三者」を登場させるかが重要なカギとなります。
顧客の属性、心理状態、関心事に応じて適切な第三者を選択することで、話法の説得力は飛躍的に向上します。
心理学的に最も効果が高いとされる3つの第三者パターンがあります。これらのパターンを使い分けることで、あらゆる顧客に対してアプローチが可能となり、営業成果の向上が期待できます。
効果的な第三者話法のパターンは以下の3つです。
- 成功している顧客の例
- 同じ属性の顧客事例
- 権威ある専門家の意見
それぞれのパターンが持つ心理的効果と、具体的な活用方法について詳しく解説していきます。
成功している顧客の例
顧客が抱える不満や不安を解決し、理想の未来を実現した顧客の事例を語ることで、自己実現欲求に訴えかけます。
ネガティブな過去の事例
「先日お会いした同じような状況のAさんも、最初は『まさか自分に何かあるとは思わなかった。でも実際に病気になったとき、家族の将来が不安で夜も眠れなかった』とおっしゃっていました」
ポジティブな解決事例
「しかし保険に加入された後は、『家族に何があっても大丈夫という安心感が得られ、仕事にも集中できるようになった。子どもたちにも堂々と好きなことをさせてあげられる』と喜んでいらっしゃいます」
同じ属性の顧客事例
顧客と同じような立場や状況にある第三者の具体的な事例を提示することで、顧客は「自分事」として捉えやすくなります。
例:
「あなたのように一流企業にお勤めの方は、皆さんこうおっしゃるんです」
「同世代のお客様で、同じような状況の方だと、こんな風に解決されて喜んでいただけるんです」
権威ある専門家の意見
公共機関が出している情報や、メディア情報を引用することで、提案の信頼性を高めます。
例:
「一般的には老後資金はこれくらい必要と言われています」
「日経新聞によると、こんなことが書いてありました」
第三者話法を使う際の注意点
第三者話法は強力な営業ツールですが、使い方を誤ると逆効果になる危険性も秘めています。
第三者話法を安全かつ効果的に活用するために注意すべき点は以下の3つです。
- 虚偽情報による信頼失墜のリスク
- 相手に合わない例を出すデメリット
- 顧客本位の姿勢を貫く重要性
これらの注意点を理解し適切に対応することで、第三者話法のメリットを最大化しながら、リスクを最小限に抑えることができます。
虚偽情報による信頼失墜のリスク
架空の事例や誇張した表現は避け、常に事実に基づいた情報を提供しましょう。
虚偽であることが見つかった場合、顧客からの信頼は完全に無くなり、長期的な関係構築は不可能になります。
相手に合わない例を出すデメリット
顧客の属性や状況に合わせた事例を用いることが重要です。
関係のない事例や極端な話は、「このセールスパーソンは私のことを理解していない」という不信感に繋がる可能性があります。
顧客本位の姿勢を貫く重要性
第三者話法は、あくまで「顧客が自ら課題を認識し、解決策を求める」ためのツールです。
常に「顧客の人生や未来」を物語の主人公とする姿勢を貫くことが重要です。
まとめ|第三者話法で自発的な決断を促そう
第三者話法は、セールスパーソンが直接伝えるよりもはるかに高い説得力と信頼性を生み出す強力なコミュニケーションスキルです。
その心理学的効果は、客観性、共感、社会的証明、そして自己実現欲求への訴求を通じて、顧客の心理的抵抗を軽減し、自発的な決断を促す点にあります。
効果的活用のポイント:
- 第三者の言葉を借りて、顧客に「自分事」として課題や解決策を想像させる
- 一般論や似たような状況の事例、権威ある意見を適切に組み合わせる
- 顧客の感情を引き出し、自身の言葉で語らせる
- 「嫌だね・いいね」のサイクルを意識した感情の変化を演出する
顧客本位の姿勢を貫き、常に顧客の利益と幸せを最優先に考える第三者話法は、初回商談からクロージング、そして紹介の獲得に至るまで、営業活動のあらゆる場面で活用できる普遍的なスキルです。
このスキルを習得し、組織全体で活用することで、属人的な営業から脱却し、再現性のある営業成果を生み出すことが可能になります。
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